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松山地方裁判所 昭和43年(ワ)96号 判決 1969年1月28日

原告

朝日タクシー株式会社

被告

畝崎新太郎

主文

被告は原告に対し金一九四、一三〇円およびこれに対する昭和四三年三月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、原告において金五〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告

「被告は原告に対し、金二〇七、三三〇円およびこれに対する昭和四三年三月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決および仮執行の宣言

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決

(当事者の主張)

第一、請求原因

一、事故の発生

昭和四二年一二月二四日午後一〇時三〇分から同日午後一一時の間に松山市北山越町六七〇番地先国道一九六号線路上において、同道路上を北進中の被告運転の普通乗用自動車(愛媛五そ二六九一号。以下被告車という)は、同道路上を南進中の高橋秀明運転で原告会社所有の普通乗用自動車(愛媛五あ六三二三号。以下原告車という)に衝突した。

二、被告の責任

右衝突事故(以下本件事故という)は、被告の過失により発生した。すなわち、被告車は、右道路の右側を時速六〇キロメートルのスピードで暴走して来たものであつて、すでに危険を感じて停車中の原告車に衝突したものである。

三、損害

原告会社は、本件事故により次の損害を蒙つた。

1 原告車修理費 八六、五三〇円(但し、走行不能となつた原告車を本件事故現場から修理工場へ牽引するのに要した費用二、〇〇〇円を含む)

2 逸失利益 一〇〇、八〇〇円

原告車は本件事故による破損のため昭和四二年一二月二五日から同月三〇日までの六日間使用不能となつたので、タクシー事業を営む原告会社は、原告車を営業に使用することができなかつた。本件事故がなければ、原告会社は、右期間中原告車を営業に使用して一日平均一八、二〇〇円、合計一〇九、二〇〇円の運賃収入をあげえたはずであり、一方これに要する燃料費等の必要経費は一日平均一、四〇〇円、合計八、四〇〇円であるから、右収入から右費用を控除すると右期間中の原告会社の得べかりし利益は一〇、八〇〇円となる。

3 原告車の評価の低下額 二〇、〇〇〇円

四、結論

よつて原告は被告に対し右損害の合計額である二〇七、三三〇円およびこれに対する不法行為の日の後である昭和四三年三月三日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二、請求原因に対する被告の認否

第一項を認め、第二、三項を否認する。

第三、抗弁

仮に被告に過失があるとしても、本件事故の発生は、原告車を運転していた高橋秀明が居眠り運転をしていたため、被告車の右廻を発見するのが遅れ、ハンドル操作を誤つて右にハンドルを切つて進行したことにも起因するのであるから、損害賠償額の算定にあたつては、右事情を斟酌すべきである。

第四、抗弁に対する原告の認否

否認する。

(証拠)〔略〕

理由

第一、請求原因について

一、請求原因第一項の事実(本件事故の発生)は、当事者間に争いがない。

二、そこで次に請求原因第二項(被告の責任)について判断する。

〔証拠略〕を総合すれば、本件事故現場にさしかかる前は、原告車と被告車は、いずれも時速約四〇キロメートルから約五〇キロメートルぐらいで進行していたこと、原告車を運転して道路の左(東。以下右もしくは左の表現はそれぞれの進行車を基準として用いることとする。)側を南進していた高橋秀明は、約三〇メートル前方の道路右(東)側を北進中の被告車を発見し、同車との衝突をさけるため同車の動向に注意しながら徐行を開始したこと、右高橋は被告車がさらに道路の右(東)側に寄つて進行を続けたため、同車との衝突の危険を感じ原告車の進行方向を右(西)にかえたこと、その頃被告車も徐行しながら左(西)に進行方向をかえたこと、そのため遂に両車は衝突するにいたつたことが認められる。被告は、「道路右側を進行したことはない。道路のセンターラインの付近から右折するため前方を見たときは南進中の車はなかつたが、北進中の後続車の有無をたしかめた後、右折しながら左を見たら南進してくる車のライトが目に入つたので、これをさけるためあわててハンドルを左に切つた。」旨を供述するけれども、この供述は、本件事故現場付近の道路の見とおし状況は良好(前方の見とおし可能距離は約一〇〇米)であつた(〔証拠略〕)のであるから、被告のいう右折開始直前には南進中の原告車を発見しえたはずであること、被告自身も検察事務官に対する供述調書(〔証拠略〕)において、道路の右側を走行したことを認め、大工の家へ寄ろうかと考えながら運転していたのが右側走行の原因であつたと説明しており、さらに右供述調書において被告は、被告が対向車との衝突をさけるためハンドルを右に切りさらに左へ切り返したときに衝突したと述べていること(検察事務官に対する右各供述の信用性を否定すべき事情はなんら存在しない)、および前記各証拠に照らし、たやすくこれを採用することはできない。他に前記認定を左右するにたる証拠はない。したがつて、本件事故は、もつぱら、前示のような被告車の右側通行によつて生じたものであつて、被告の過失によつて発生したものといわざるをえない。

三、次に請求原因第三項(本件事故により原告会社の受けた損害)について判断する。

1  、原告車修理費等について

〔証拠略〕によれば、本件事故により原告車が破損し、走行不能となつたこと、原告車の右破損に対する修理費(修理に伴なう取替部品代を含む)は八四、五三〇円、本件事故現場から修理工場(予州自動車株式会社整備工場)までのレッカー車による原告車の牽引費は二、〇〇〇円であること、原告会社が右各費用を右修理および右牽引を実施した予州自動車株式会社に支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

なるほど〔証拠略〕によれば、本件事故による被告車の破損部分の修理費は一九、三九五円であることが認められ、被告本人は、原告車と被告車との損傷程度は全く同じだと思う旨供述するけれども、右供述を裏づける証拠は皆無であるのみならず、本件事故直後、被告車は自力で事故現場から走り去ることができたのに対し、原告車は走行不能の状態であつたこと(〔証拠略〕)からすれば、原告車は被告車よりもその損傷程度がひどかつたと推認されるのであつて、前記各証拠に表われた原告車の修理状況に特段の不合理を発見しえない本件においては、被告車の修理費が前示の程度であるからといつて、原告車の修理費が不当に高額であるとまではいうことができない。

2、逸失利益について

〔証拠略〕によれば、タクシー会社である原告会社は原告車を本件事故による破損の修理のため、昭和四二年一二月二五日から同月三〇日まで、タクシー営業に使用しえなかつたこと、その間の原告会社の原告車以外の車全部による運賃収入は合計二、四二〇、六〇〇円であり、同期間の延運行台数は一三三台であること、したがつて同期間における一日一車あたりの運賃収入の平均は一八、二〇〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。一方、〔証拠略〕によれば、本件事故による原告車の休車によつて原告会社が支出をまぬかれた費用は、一日あたり燃料費約七〇〇円、タイヤ消耗費約一〇〇円、エンジンオイル費約八〇円以上合計約八八〇円、および右休車期間中に運行したならば運転手に支払うべき、実際の運賃収入に対応する歩合給と一か月に一〇〇、〇〇〇円の運賃収入があるものとして計算して運転手に支払うべき右期間中の歩合給との差額(前者の場合の歩合給は後者の場合の歩合給よりその額が多くなるはずである。なぜなら、右期間中の実際の運賃収入は一日(一乗務)あたり前記のように一八、二〇〇円であるのに、一か月に一〇〇、〇〇〇円の運賃収入とは一日(一乗務)あたり八、〇〇〇円弱の運賃収入を前提としたものであるからである)などということになる。ところで、原告車の休車により一日あたり一、四〇〇円の支出をまぬかれたことは原告会社の自認するところであるし、右樽本の述べる金額も単に一応の計算金額を述べているにとどまり、はたしてそれがどの程度正確なものか確認する証拠のないこと、概算に伴なう誤差のあることなどを考慮すると、結局原告会社が原告車の休車により支出をまぬかれた一日あたりの費用は、運賃収入の約二割、すなわち三、六〇〇円をこえることはないと認定するのが相当であり(支出をまぬかれた費用は最大限これ以上には出ないということは、原告会社において立証しなければならない事項であることに留意すべきである)、右認定を左右するにたる証拠はない。そうすると、原告会社の原告車の休車による一日あたりの逸失利益は、前記一日一車あたりの運賃収入一八、二〇〇円から右三、六〇〇円を控除した一四、六〇〇円となり、前記休車期間中の逸失利益の合計は、八七、六〇〇円となる。

なるほど、〔証拠略〕に計上してある昭和四一年一〇月一日から同四二年九月三〇日までの期間における原告会社の純利益をもとにして算出すると、右期間の原告会社の一日一車あたりの純利益が約四九六円になることは明らかであるけれども、本件事故による原告車の休車期間である一二月二五日から同月三〇日までという時期は、タクシー営業にとつて、もつとも繁忙な時期にあたる(証拠―証人樽本の証言)のであつて、その間の一日一車あたりの純利益は年間を通じてのそれよりも、かなり高額なものとなると考えられるのみならず、そもそも、本件事故による原告車の休車に起因する原告会社の逸失利益を、得べかりし純利益を基準にして算定することは誤りであるから、前記意味で純利益が約四九六円になることは、前判示の結論を左右しない。本件事故による原告車の休車に起因する原告会社の逸失利益の額は、本来原告車が休車しなかつたならば原告会社があげることができたはずで、実際には右休車のためあげることができなかつた運賃収入から、本来原告車が休車しなかつたならば支出しなければならなかつたはずで、実際には右休車のため支出をまぬかれた費用を控除した結果算出される金額と考えるべきである。つまり簡単にいえば、右逸失利益の額は、右休車のために原告会社に入らなくなつた収入から右休車のために原告会社が出さなくてもよくなつた費用を差し引いた額になるのであつて、右休車のため得ることのできなくなつた純利益の額ではないのである。このことは、たとえば、事故のため休車しても、会社は、少なくとも運転手に対する固定給は支払わねばならぬことを考えれば明瞭であろう。

3、原告車の評価の低下額について

〔証拠略〕によれば、原告車の評価額は、本件事故による破損のため修理完成後も二〇、〇〇〇円以上低下したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

第二、抗弁(過失相殺)について

原告車を運転していた高橋秀明が居眠り運転をしていたため、操縦を誤つたとの被告の主張を肯認するにたる証拠はない。本件道路の東半分は、その東端に一・四メートル程度の非舗装部分があるとはいえ、自動車の進行に適する舗装部分は四・五メートル程度で、普通乗用自動車が二台すれちがえる程度の広さしかないこと(〔証拠略〕)を考えれば、請求原因に対する判断で前述したような原告車と被告車の進行状況のもとにおいては、原告車を運転していた高橋秀明が、被告車がそのまま道路の右(東)側を進行して原告車と衝突する危険を感じて、これをさけるため右(西)方へ方向をかえたことを(その頃被告車が同方向に進路をかえたため結果として両車が衝突するにいたつたとしても)右高橋が運転操作を不注意によつて誤つたとまで評価することは相当でない。被告の抗弁は理由がないといわざるをえない。

第三、結論

そうすると、被告は原告会社に対し、同社が本件事故によつて受けた前記認定の損害額合計一九四、一三〇円およびこれに対する本件不法行為(本件事故)の日の後であることの明らかな昭和四三年三月三日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があることになる。よつて、原告の本訴請求は、右判示の限度で理由があるのでこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤滋夫)

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